6月3日に帰国して早いもので3週間が過ぎました。帰国後一週間は、タロとジロは私の実家の両親のもとで過ごしました。実家の両親に預けていた荷物や家具はすでに新居に運ばれていましたが、それらを使える状態にするには、あまりにその量が多すぎました。さらに平行していろんな手続き、必要な生活用品の買い出しなど、やることが山程あって、とても子連れでは不可能だったからです(ってオランダでは預ける人もおらず、子供と一緒にやっていたわけですが)。
そして帰国10日後に、まずタロが小学校に初登校しました。日本の法律では転居後二週間以内に居住区の学校に行かせること、となっています。オランダでは学用品は全て学校で共用していたので、タロ用に必要な学用品、指定の上履き、体操着などを準備し、なおかつ記名をするという、おそろしく気の遠くなるような作業があったのですが、できるだけ早く学校に行かせたいという思いから、深夜まであれこれ記名をし、書類を書き込み...と母は頑張りましたよ。
オランダでのインターのクラスメイトや先生と別れる時は、意外にあっさりしていたタロでしたが、インターの自由な雰囲気、気心の知れたクラスメイトと別れ、また新しい環境に突入する訳です。学校の始まる数日前から、祖父母の家から私たちの待つ新居にやって来たのですが、学校のことに触れると、かなりナーバスな表情になってました。
初登校の一週間前、私は居住区にある学校に電話でアポを入れ、担任の先生に挨拶がてら、いろんな説明を受けてきました。担任の先生は年配のベテラン風の女性の先生でした。とても幸運なことに、その先生は私が説明するタロのオランダでの二年間、そして現状をとても親身になって聞いて、そして理解を示してくれました。英語と日本語が拮抗していること、読み書きは英語の方が優っていること、それゆえ、日本語に言いよどみが見られるし、先生や友達の話す日本語の理解が十分でないだろうということ、さらには日本の小学校の授業形態や、給食、清掃など、あらゆることが初体験で戸惑うであろうということ。私の不安に対し、先生はできるだけ気を配り、きめ細かに指導していきますとおっしゃって下さいました。
そして初登校の日。校長への挨拶もあることから私も一緒に登校しました。この学校は、以前イギリスからの帰国子女の低学年の子を受け入れたことがあるそうですが、その子は初登校の日、教室の雰囲気に緊張し、廊下で立ちすくんで泣いてしまったそうです。それだけ子供にとっては学校が変わる、いくら母国とはいえ、初めての日本の学校へ転入するというのはストレスなのだと思います。タロの顔も緊張していました。おじいちゃんおばあちゃんからのプレゼントの紺のランドセルがタロの背中でピカピカ光っています。
「****タロです。よろしくお願いします。」
インターでは13人という少人数クラスでしたが、ここでは28人のクラスメイトの目が一斉にタロを見つめます。その中で、少しはにかみながら、きちんと挨拶したタロでした。
担任の先生は事前に生徒たちにこう説明して下さったそうです。
『タロくんはみんなが日本語の中で過ごして、日本語を勉強している間、英語を勉強していたんだよ。だから日本語があまり得意でないかもしれない。日本語がスムーズに出て来ないかもしれない。でも決して笑っちゃダメ。みんなが漢字や日本語のお話が得意な代わりに、タロくんは英語で読み書きできるんだよ。タロくんからオランダのいろんなことを聞こうね。楽しみ
だね。』
低学年の子にとって担任の先生の一言程絶大なものはありません。タロの言いよどみも、給食のときどうしたらいいかわからなくて戸惑う時も、誰も笑わず、からかわず、みんなタロに親切に教えてくれるようです。
タロの学校生活も3週間目に突入しましたが、最初はかなりイライラしていました。宿題は?って言うだけで「もおお〜〜〜」といってランドセルから乱暴にノートを取り出したり、ジロに当たったり。最近ようやくぴりぴり感がなくなったように思います。そして、学校教育ってすごいなあ〜と感心するのは、私がオランダでどれだけ教えても教える側から忘れていってしまう漢字を、きちんと覚えて、しかも楽しそうに書くようになりました。さらに日本語の音読も、オランダにいる時は大嫌いでいやいや読んでいて、そのためか「んー****」「んー####」というように、文頭の言葉が焦って出て来ないのでした。それが今や、つっかえることもなく、「んーー」もすっかり消えてしまいました。
初登校の週にさっそく参観日があって、しかも自由参観ということで一日、どの時間帯でも、何時間でも自由に観ていいというものがありました。そこでは、道徳の授業で訊かれていることがわからず、あきらかに退屈してくにゃくにゃと机にへたっているタロの姿や、またその反面、算数でいきいきとプリントの問題を解いて、となりの子に教えてあげている姿を観ることができました。学年の合同体育ではクラスメイトの男の子に「行くぞ〜」って手を引っ張られて嬉しそうなタロの顔も観ることができました。
あれこれ気をもむのは親の性分で仕方ないですね。でもそんなハラハラドキドキの母をよそに、タロはオランダで乗り越えた試練を糧に、日本での新たな試練も逞しく乗り越えようとしているのでありました。